仕事を引き受けるときのキホン

はじめに

ファッション業界の慣習の中で、私が常々問題だと感じていることの一つが、「口約束で仕事を引き受けてしまう」ことです。
一口にファッション業界といってもいろいろな業態があるため一概にはいえませんが、たとえばフリーランスのクリエイターが仕事を引き受ける際に契約書などの書面を作成することは、特別な場合を除いては、ほとんどないといっても過言ではありません。私自身も、ファッションエディターとして仕事をしていた頃は、わざわざ書面を作成したことはありませんでした。

書面を作成しないワケ

このように書面を作成しない最大の理由は、あくまで私見ではありますが、相手を信頼しきってしまうからだと思っています。多くの場合、仕事を受けるかどうかの基準は、相手の会社名やブランド名、雑誌名等の「看板」の信頼度です。会社名は有名ではないけれど、その仕事に関わっている人が有名(またはその人のことを良く知っている)という場合も、これに含まれます。こうした「看板」に対する信頼に基づいて仕事を引き受けるため、「信頼している人からの仕事だし、わざわざ書面を作る必要はないか…」という思考に陥りやすくなるのだと思います。これに加えて、仕事の依頼から仕事当日までの期間が短く書面を作成する時間がないとか、仕事の条件等が確定していないまま口約束だけでずるずると仕事が進んでしまった…というのも理由の一つでしょう。

トラブルは突然やってくる

口約束だけで仕事を受けることの最大のデメリットは、何らかのトラブルが発生したときに、あなた自身の主張を裏付ける資料が存在しないということです。口約束だけでは、「言った言わない」の水かけ論になるだけで、結局は、立場の弱い方(おそらくはあなた)が相手の言いなりにならざるを得なくなります。

トラブルは突如やってきます。
信頼しているが故に、裏切られた気持ちになり、「信頼していた自分が悪いんだ」などと自分を責めて泣き寝入りしてしまうケースは少なくありません。
悪いのはトラブルを起こした相手方です。信頼したこと自体が悪いなんてこれっぽっちも思いません。
ただし、トラブルが発生したときに備えて、自分を守るための最低限の注意はしておきましょう。
そこで、仕事の依頼を受けた際のごくごく基本的なポイントを以下にまとめてみました。もうやっている方がほとんどかと思いますが、まだの方は、これだけは絶対に実践してください。

これだけはやって! お願い!!

point1 まずは相手のことをリサーチしよう

当然やっていらっしゃると思いますが、特に初めて依頼を受ける場合には、必ず相手についてリサーチしましょう。「看板」はそこそこ有名だけれど、よくよく調べてみると実態はトラブルだらけだった…というケースも、残念ながら皆無ではありません。会社なら、ホームページ上の「会社情報」をチェックし、資本金や従業員数等、会社の規模を把握しておきます。インターネットやSNS等を駆使して、会社や代表取締役についての評判等もチェックしておきましょう。また、その相手とすでに仕事をしたことがある人がいるなら、その人に、仕事を進める中で不安な点はなかったかなどを聞くことも有用です。
危ない相手とは、そもそも取引に入らないことが一番です。取引に入ってから後悔することのないよう、事前にしっかりとリサーチしておきましょう。

point2 できることなら契約書をつくりたい

トラブルに備える場合、できることなら契約書を作成するのが一番です。会社やそれなりに実績のある相手なら、すでにそういった契約に慣れており、契約書のひな型を持っていることもありますので、まずは勇気を出して「契約書を作成したいのですが、契約書のひな型のご用意はありませんか?」と聞いてみましょう。契約書については、別の機会に詳しくご紹介したいと思います。

point3 仕事の条件はメールやラインなど残る形で!

とはいえ、最初にお話ししたとおり、契約書を作成するのは相当ハードルが高いと思います。契約書を作成したいと伝えたところで、相手からは、「え…他の方とは契約書なんて作成したことありませんけど(契約書つくりたいとか、この人めんどくさっ。もう頼むのやめた。)」とあしらわれるばかりか、その後仕事の依頼が途絶えてしまった、なんて事態にもなりかねません。
そこで、相手に面倒くさいと思わせることなく、自分の主張を裏付ける資料を手に入れるために活用したいのが、メールやラインです。相手から仕事の連絡がきたら、「詳細はメール(またはライン)でお知らせください」と返しましょう。電話や直接会って話した場合でも、「確認のために」「忘れてはいけないので」など理由をつけて再度メールやラインで詳細を送ってもらうようお願いしてください(または、こちらからの確認メールに対して、相手がそれを了解する内容でも構いません)。
その際、「詳細」として、次の事柄について書いてもらうようにします。なお、これ以外にも、たとえば交通費・経費の取扱い等、気になる点はできる限り事前にクリアにしておきましょう。

・仕事の具体的な内容(できるだけ詳細に!)
・仕事日(期間、仕事の締切日等)
・報酬金額
・報酬の支払予定日
・請求書の宛名・送り先

仕事を引き受けた後も、報酬がきちんと支払われるまでは、重要な連絡事項についてはできる限りメールやライン等を利用して記録を残しておくことをお勧めします。
至極簡単ですね。

おわりに

ここまで読み進めてくださって、「メールやラインでやりとりするとか普通すぎじゃない!?」と思われた方も多いと思います。しかしながら、私自身の経験上も、また、実際に相談を受ける中での感想としても、ファッション業界においては、まだまだ口約束だけで仕事を進めている方が本当に多いのが実情です。
契約書はもちろん、仕事の条件をメールやライン等で文字にすることの効果は、後々のトラブルを回避するという法的なものだけにとどまりません。書面化することにより仕事の条件がクリアになるため、作業にムダがなくなり、効率性が上がるという実質的な効果も期待できるのです。その意味でも、仕事をしていく上で書面に残しておくことの効果は少なくありません。いい仕事ぶりは、必ずや自分を守ってくれます。
口約束から書面化へ。自分を守るためにぜひ実践してみてください。

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