契約書をつくってみよう

 

はじめに

前回、「仕事を引き受けるときのキホン」と題して、仕事を引き受ける際に書面化しておくことの重要性についてお話しました。契約書について、まずは相手に「契約書のひな型のご用意はありませんか?」と聞くことをおすすめしましたね。
では、「ひな型は用意していない」と言われた場合はどうすればいいか?
そうです。契約書をつくってしまいましょう。
これからご紹介する内容は、相手が用意してくれたひな型をチェックする際にも役に立ちますので、頭の片隅にでも入れておいてください。

 

契約書ってなに?

そもそも契約とは、ごくごく単純にいうと、自分と相手との間で交わす約束をいいます。
たとえば、相手から仕事をお願いされるシーンを想像してみてください。
相手「雑誌Aの6月号で、モデルのスタイリングをお願いします。ギャラは5万円で、撮影日は5月15日です。」
あなた「了解しました!」
ここで、あなたと相手との間で、「あなたが、雑誌Aの6月号のスタイリングをギャラ5万円で請け負う」という内容の約束が成立しました。この約束こそが契約です。このように、契約は口約束だけで成立するのが原則です。
ただ、口約束だけでは、内容があいまいになったり、思い違いなどで後々トラブルになるおそれがあります。
こうした事態を防ぐため、口約束の内容を文書化したものが契約書なのです。
このように、契約書は、契約内容を明らかにし、トラブルを予防するために作られますが、裁判の証拠としても重要な意味をもっています。
なお、先ほども触れましたが、契約は原則として合意(口約束)だけで成立します。契約書を作成していなくても契約自体は成立していますので、ご注意ください。

 

契約書をつくるときの視点

では、契約書にはどんなことを書けばいいのでしょうか?
上でお話したとおり、契約書は、契約(口約束)の内容を明らかにし、後々のトラブルを予防することが主たる目的です。
「この目的を達成するためにどんなことを定めておけばいいかな?」という視点で考えると、おのずと契約書に定めるべきことが見えてくると思います。

 

どんなことを定めればいいの?

ここでは、ファッション業界でもスタンダードな契約形態である「業務委託契約」(請負契約)を例にとって考えてみましょう。
契約書によってさまざまな内容が定められていますが、紙幅の関係上、必ず入れてほしい特に重要な条項をご紹介したいと思います。イメージをもっていただくため、参考となる例文もご紹介します。
ただし、契約書はそれぞれの当事者の具体的な事情や希望を細かく反映させることが重要なので、どんな場合にも使える条項というものはありません。ここに挙げる例文もあくまで参考ですので、その点ご了承ください。

① 業務内容

業務委託契約(請負契約)とは、当事者の一方(甲さんとします)が他方(乙さんとします)に、ある業務をお願いすることを内容とする契約です。そうすると、甲さんが乙さんにどんな業務をお願いするのか、その内容がとても重要になりますね。
そこでまずは、契約書の冒頭に、具体的な業務内容を記載しましょう。後々トラブルにならないよう、できる限り詳しく書いておくことがポイントです。
なお、契約書では、なぜか当事者を「甲」「乙」と呼びます。慣習だとは思いますが、私はいまだにこの呼び方に慣れません・・・。

【例】
第1条(業務内容)
甲は、本契約の定めるところにより、以下の業務(以下、「本業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
① 雑誌Aのスタイリング業務
② 前号の業務に付随する業務
③ その他、甲乙間で別途合意した業務



② 対価の金額

業務のギャラがいくらであるかは、払う方にとってももらう方にとっても非常に重要ですよね。金額と支払期限、支払方法をきちんと決めておきましょう。

【例】
第2条(報酬)
甲は乙に対し、本業務の対価として金50,000円を、平成30年7月末日までに、乙の指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。



③ 契約期間

契約がある限り、当事者は契約の内容に縛られるため、契約がどのくらい存続するかは当事者にとって重要な関心事です。そこで、契約期間は明確に定めておきましょう。
なお、契約期間が終了した後も、同じ内容の契約を繰り返し存続させたい場合、「自動更新条項」と呼ばれる条項を入れることがあります。この条項が入っていると、本当は契約内容を変えたいと思っていたのに(たとえばギャラの金額を上げたいなど)、うっかり今までと同じ内容の契約がそのまま続いてしまうことになるので、注意が必要です。

【例】
第3条(契約期間)
本契約期間は、平成30年5月1日から同年7月31日までとする。
※自動更新条項の例
前号に定める契約期間満了日の1か月前までに、甲乙いずれからも異議のないときは、本契約と同一の条件でさらに3か月間更新されるものとし、以後同様とする。



④ 納入と検品

たとえば写真データや製品などの製作物を納入することが契約の内容になっている場合には、納入や検査についても決めておく必要があります。
製作物を何も言わずに受け取った委託者(ここでは甲さん)が、ずいぶんたってから「製作物に欠陥があったから代金は払わない」などと支払いを拒むケースがあります。こういうトラブルを避けるためにも、きっちりと決めておきましょう。

【例】
第4条(納入・検査)
1 乙は、甲に対し、本業務にかかる成果物(以下、「成果物」という。)を、甲乙が別途定めた期日及び方法に従い納入する。
2 甲は、成果物について、前項の納入後遅滞なく検査を行い、合格したときは、乙に対してすみやかに合格を通知する。
3 甲が、第1項の納入後14日を経過しても、乙に対して何らの通知もしない場合には、成果物は前項の検査に合格したものとみなす。



⑤ 権利の帰属

写真データや商品などの製作物には、所有権や著作権をはじめとする知的財産権が発生しています。この権利は、原則としてその製作物を製作した乙さんにありますが、乙さんに製作を依頼した甲さんとしては、今後、製作物を使用するため、それらの権利を乙さんから自分へと移しておきたい、または、製作物の使用権を得ておきたいと考えます。製作物の所有権や知的財産権をどちらに帰属させるのかを決めるのが、この条項です。

なお、所有権と知的財産権とは全く別々の権利ですので、注意してください。所有権とは、有体物(ざっくりいうと形のあるもの)を自由に使用したり処分したりできる権利をいいます。
これに対して、知的財産権は、知的な創作活動によって何かを創り出した場合、それを他人に無断で利用されない権利をいいます。
たとえば、大物フォトグラファーが撮影した写真があるとします。写真がプリントされた印画紙自体は有体物ですので、所有権が発生しています。これに対して、写真そのものは、フォトグラファーが知的に創作したものですので、著作権(知的財産権の1つ)が発生しているわけです。

これらの権利をどちらに帰属させるかは、甲さんと乙さんとの合意で自由に決めることができますので、製作物の内容や性質、報酬の金額なども考慮しながら、お互いが納得できる形で決めましょう。
ちなみに、製作物の製作に対する報酬と知的財産権に対する料金は別モノです。契約書の中には、知的財産権に対する料金を報酬に含めてしまっているものも多くありますので、そのような場合には、金額が「ギャランティ+知的財産権の料金」として十分かどうか確認し、少ないようであればきちんと交渉することが大切です。
権利の帰属について決めた条項としてよく見るのは、次の2タイプです。

➤ すべての権利を甲さんに移転させるタイプ
移転時期については、乙さんが甲さんに製作物を納入し、検査に合格した時にこれらの権利が移転するとしているものが多いように思います。
甲さんは、製作物を自由に利用することができるようになるので、甲さんにとって有利な規定です。
この場合でも、製作過程でできたもの(書き損じのスケッチなど)の所有権や知的財産権は、乙さんにとどめておくとよいと思います。

➤ 所有権は甲さんに移転させ、知的財産権は乙さんにとどめたまま甲さんに使用権を認めるタイプ
乙さんが知的財産権を保持し続けたい場合には、こちらを選ぶとよいでしょう。
通常、甲さんは何らかの目的で乙さんに製作を依頼しており、その目的が達成できる範囲で製作物を利用できれば十分なので、甲さんにとっても不利にはなりません。

他にも決め方はありますが、いずれにしても、どのように決めるかは、甲さんと乙さんとの合意によります。製作物の内容や性質、報酬の金額なども考慮しながら、お互いが納得できる方向で決めるのがよいと思います。
参考例として、経験上よく見かける、甲さんに移転させるタイプ(1つめのタイプ)を挙げておきます。

【例】
第5条(権利の帰属)
1 成果物の所有権及び著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む。)その他一切の知的財産権は、第4条2項に定める合格通知をもって、乙から甲に移転する。
2 成果物の製作過程で発生した中間成果物(不採用となったものを含む。)の所有権及び知的財産権は、乙に帰属する。
3 乙は成果物につき、著作者人格権を行使しないものとする。



⑥ 解除・損害賠償

「相手が契約に違反しているから解除したい!」「そのせいで損害が発生してしまったから賠償してほしい!」なんてトラブルにも対応できるよう、解除や損害賠償の条項も入れておくと安心です。民法の確認的な規定ですが、契約書に入れておくことで抑止力にもなります。

【例】
第6条(損害賠償・解除)
1 甲または乙が、本契約に違反した場合、これによって生じた相手方の損害を賠償しなければならない。
2 甲または乙が、本契約に違反した場合、相手方は相当の期間を定めて催告の上、本契約を解除することができる。



⑦ 合意管轄

①~⑥よりは重要度が下がりますが、意外に見落としがちなのでここで触れておきます。
第一審の裁判所をどこにするかは当事者の合意で決めることができますので、ご自分に有利な裁判所にしておきましょう。
この条項は、特に相手が遠方や海外に拠点を置いている場合に意味があります。
遠方の裁判所が合意管轄裁判所とされている場合、トラブルが起きたらわざわざその裁判所まで出向かなければなりません。
また、合意管轄裁判所について定められていない場合、相手の住所を管轄する裁判所に行かなければならないこともあります。
このように不便な事態が起こらないよう、注意しておきましょう。

【例】
第7条(合意管轄)
本契約に関連して甲乙間に生じる一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

 

さいごに

契約書のつくりかたについて、業務委託契約書を例に、ごくごく簡単にご紹介しました。
そんなに難しくは…ないはず。
「合意した内容は何かな?」「こんなトラブルになったらどうすればいいかな?」という視点で考えていただければ、おのずと契約書の中身は決まってくるはずです。
このブログが、みなさまが契約書をつくったり読んだりする際の一助になれば幸いです。
なお、最初にもお話したとおり、契約書は具体的な事情や背景を反映させることがとても重要なので、迷ったときは、こちらのサイトかお近くの弁護士に気軽に相談してみてください。

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