#MeToo について少しだけ ② -ファッション業界編-

ファッション業界の#MeToo ムーブメント

「#Metoo について少しだけ ① -総論‐」でご紹介したとおり、映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインさんのセクハラ疑惑を皮切りに、映画業界や音楽業界をはじめ、さまざまな業界において、セクハラ被害の撲滅を訴える#MeToo ムーブメントが広がっていきました。
ファッション界ももちろん例外ではありません。
テリー・リチャードソンさんやブルース・ウェバーさん、マリオ・テスティーノさんといった大御所フォトグラファーがセクハラ行為を行ったとの告発が相次ぎました。
また、トップスタイリストのカール・テンプラーさんやファッションブランドGUESSの創業者も、セクハラを告発されています。

日本でも、モデルのKaoRiさんが、「その知識、本当に正しいですか?」と題して、世界的フォトグラファー荒木経惟さんから受けたセクハラ被害をブログで公表しました。
これを受け、モデルの水原希子さんも、インスタグラムのストーリーで、自身の体験を語っています。

これらファッション界での#MeToo 問題の多くには、共通している点があります。
それは加害者がフォトグラファーやスタイリストなどの創り手であり、被害者がモデルであることです。

 

モデルへのセクハラの実態

ファッション雑誌や広告、ショーなどで、ブランドの顔として華々しく活躍するモデルたち。
ファッション業界では、数え切れないほどたくさんの若いモデルたちが、トップモデルを目指して日夜努力しています。
モデルが売れっ子になるための方法はいくつかありますが、力のあるフォトグラファーやスタイリスト、デザイナーなどに気に入られることは効果的な方法の一つです。
特に、有名なフォトグラファーに気に入られれば、そのフォトグラファーの推薦でさまざまな雑誌や広告などに登場することができ、あっという間にトップモデルの仲間入りをすることも夢ではありません。
意識的にせよ無意識的にせよ、モデルたちが創り手に気に入られるよう行動するのは当然といえます。

また、知識も経験も不十分な若いモデルたちにとって、フォトグラファーやスタイリストたちの指示が適切であるかどうか判断できないことも多く、大先輩である創り手から「こっちのほうがカッコいい」「業界ではこれが普通」などと言われると、これに従わざるを得ません。
カッコいいものを作っているという一体感などから、その場の雰囲気やノリに乗せられてしまうのも、これに近いといえます。

このように、ファッション業界では、モデルたちが創り手に従属せざるを得ない構図が存在するのです。
そして、こうした状況につけ込む創り手が存在するのも事実です。
こうした輩は、モデルのことを自分の表現活動の一要素くらいにしか考えておらず、モデルを物のように扱うこともあります。
さらに悲しいことには、ファッション業界には、このように立場の弱いモデルにつけ込む創り手の暴挙を、クリエイティビティの範疇として許容する空気が色濃く残っています。
こうした空気が、さらに創り手を増長させ、モデルを追い込んでいくことになるのです。
フォトグラファーから「クオリティの高い写真を撮るため」に服を脱ぐよう求められたモデルは、戸惑いながら、「ここで脱いでおけばもっと大きな仕事がくるかも」「私が脱げば、もっとカッコいい写真が撮れる」「ここで拒否したら次から呼んでもらえなくなる」「断ったらみんなの期待を裏切ることになるのではないか」などと考え、本当は脱ぎたくないのにも関わらず、にっこりしながらフォトグラファーの指示に従うことになります。

これこそが、モデルに対するセクハラの典型的なケースです。
モデルのKaoRiさんや水原さんが受けた被害も、背景にはこのような、ファッション業界特有の構造があったと考えられます。

 

セクハラに対する取り組み

このように、ファッション業界におけるセクハラの実態が次々と明らかにされる中、世界的なファッションコングロマリットと雑誌出版社がいち早く取り組みを開始しました。

 

ケリング+LVMHの憲章

世界のファッションをリードし、ラグジュアリーブランドの代名詞ともいえる2大企業のケリングとLVMHが、モデルのウェルビーイングを守るための憲章を策定しました。
世界的なファッションコングロマリットがタッグを組みこのような憲章を出すことは、過去になかったことだと思います。
ファッション界に絶大な影響力を有する2大企業の本気度がうかがえます。

憲章には、たとえば次のような、モデルの身体・精神を守るためのさまざまな条項が定められています。

・ヌードやセミ・ヌード、服装の変更については、モデルの明示的な同意が必要。

・ヌードやセミ・ヌードの撮影やファッションショー等の場合、モデルの同意がない限り、フォトグラファーやプロダクション関係者と2人きりにしない。

・撮影やファッションショーの際、特にそれらが外で行われる場合には、モデルのためのプライベートなスペースを用意しなければならない。また、モデルのプライバシーを守るため、着替えの前後にバスローブを用意すること。

・ヌードやセミ・ヌードの場合には、室温は快適な温度に保たれなければならない。

・モデルのケアのために、専任の精神分析医やセラピストを常勤させ、必要に応じてモデルが労働時間内に面会することが出来るよう環境を整えること。

・モデルは、エージェント等との間の問題について直接苦情を申し立てる権利がある。

世界的なファッション企業のこのような取り組みが、ファッション業界におけるモデルの地位を向上させる大きな一歩になったことは明らかです。
なお、この憲章では、「やせすぎモデル」禁止でも話題となった、モデルに診断書を提出させることなども盛り込まれていますが、これについては別の機会にご紹介したいと思います。

 

WeCareForModels.com

 

さらに、ケリングとLVMHは、上の憲章を発展・実現するため、WeCareForModels.com公式サイトを立ち上げました。
WeCareForModels.comでは、労働条件、ウェルビーイング、未成年の3つのカテゴリーを中心に、ダイエットやフードなどの情報や専門家のアドバイスを共有しています。
対応言語は英語とフランス語だけのようですが、ぜひチェックしていただきたサイトです。

ファッション界の2大巨頭によるこのようなアクションは、ファッション業界における思考が大きく転換していることの証左のように感じています。
これまでは、「やせている=美しい」という思い込みが蔓延しており、また、業界としてのモラルが高くなかったため、モデルの健康や気持ちを犠牲にして発展してきた経緯があります。
近年、美の基準が多様化し、セクハラへの認識が変化したことなどを背景に、モデルの健康を守ることこそが、ファッションの発展につながるという思考に転換しつつあるような気がします。

 

コンデナスト社の行動規範

世界的な雑誌出版社であるコンデナスト社も、モデルへのセクハラ防止に正面から取り組んでいます。
コンデナスト社は、ハラスメント問題に取り組むための行動規範を策定しました。
今後、コンデナスト社が主体となる撮影は、このガイドラインにしたがって実施するものとされています。
インターナショナル雑誌である『VOGUE』を発行する世界的出版社がこの問題に真正面から取り組むことにより、世界の撮影現場におけるモデルへの対応が変わることが期待されます。

このガイドラインには、モデルへの対応として次のような事項が定められています。
なお、このガイドラインでは、モデルは18歳以上とされており、18歳未満の場合には、付添人を付けるものとされています。

(コンデナスト・ジャパンの行動規範から抜粋)

・撮影にヌード、体が透けて見えるような衣類、ランジェリー、水着、動物、薬物やアルコール摂取の演技、性的に挑発的なポーズなどがある場合、その撮影に関する説明を全ての関係者に伝え、写真の被写体となるモデルから、事前の同意を得る必要があります。また、撮影に参加する全員が、計画されているヌード撮影について通知を受ける必要があります。

・着替え用のプライベートな空間は、撮影に参加する全てのモデルに用意される必要があります。

・体が透けて見えるような衣類が使用される場合、写真の被写体となるモデルと事前の合意がない限り、適切な下着を提供する必要があります。

・撮影もしくは撮影現場での肌の露出度に関し、被写体モデルが抵抗を感じる場合、撮影側は被写体が感じることを尊重する必要があります。本人が抵抗を感じるほど肌を露出するよう求めるプレッシャーを被写体に与えてはなりません。

・コンデナストは一貫して、作品の創造的及び美的決定権を所有する地位にあるものの、被写体モデル、またはその代理人及び事務所、その他の担当者が抱く懸念に対して、敬意を持って考慮する必要があります。

・コンデナストの撮影に参加する写真家、メイクアップアーティスト、あるいはその他のコントリビューターとモデルが二人きりにならないことを推奨します。

 

私の経験上、少なくとも日本のファッション雑誌の現場では、このガイドラインから大きく外れる態様で撮影が行われることは多くないようには感じています。
ただし、創り手側が十分配慮したつもりでも、モデルが若く、知識も経験も浅いことを考えれば、嫌だと言い出せなかったり、その場のノリに乗せられて同意してしまい、撮影後に苦い思い出だけが残るケースもないとは言えません。
また、KaoRiさんの場合がそうであるように、特に私写真のような形での撮影では、このガイドラインから大きく外れた態様で撮影がなされているケースも少なくないでしょう。
自戒も込めて、すべての撮影がこのようなガイドラインに従って進められるべきであると思います。

 

日本におけるアクション

このように、世界的にはモデルに対するセクハラを防止するためのさまざまな取り組みが積極的になされていますが、日本でこうしたアクションを起こしたところは、残念ながら、今のところないようです。
出版社やモデルエージェンシー、業界団体などが、率先してこのような動きに続くことを期待したいと思います。
なお、もしかしたら私が知らないだけかもしれませんので、「こういう団体がこんなことしてるよ」なんて情報をご存じの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてくださいませ!

 

フォトグラファーの方へ

➤ モデルを撮影するときの注意点

そこで、フォトグラファーの方々へお願いです。
モデルを撮影する際には、ぜひ自主的に、モデルのプライバシーや意思を尊重するようにしてください。
具体的には、次のようなことを実践されるのがいいと思います。

・撮影の責任者があなた自身の場合(通常の撮影ではエディターなどの担当者がいるので、作品撮りなどの場合に限られるかもしれませんね)、モデルまたはモデル事務所に対し、どのような撮影内容か(コンセプトは何か、どのような服を着るのか、どのような場所や状況で撮影するのかetc)を事前に説明し、合意をとっておきましょう。

・撮影時、モデルにも、これから撮影する内容やコンセプトなどを説明して、合意をとりましょう。

・特にヌードまたは露出が多い服だったり、服は着ているけれど状況やポーズなどでセクシャルなイメージにつながるような場合には、撮影前に必ずモデル事務所とモデルの双方の合意をとり、「撮影中でも嫌なときはいつでも変更・中止する」旨伝えましょう。
撮影中もモデルの合意をとりながら進めるようにし、撮影中にモデルが不快感を訴えた場合には直ちにこれを受け入れ、必要に応じて撮影内容等を変更・中止しましょう。

・モデルが誰にも見られずに(スタイリストなど最低限の人を除いて)着替えができる場所を確保しましょう。

・その場のノリや勢いで、モデルに説明していないヌードや露出が多い撮影、セクシャルなイメージの撮影を強行してはいけません。
撮影中のひらめきや、モデルとのコミュニケーションの中で、こういった撮影が行われることはしばしばありますが、この場合には、撮影をいったん中断して落ち着いて話せる場を設け、モデル事務所とモデルの合意をとった上で行いましょう。

・当初の撮影の目的とは異なる用途に使う場合(作品として撮影したものを、エキシビションに出すなど)には、その都度必ずモデル事務所とモデルの確認をとりましょう。

➤ 合意書をつくりましょう

この記事を書くきっかけともなったのですが、冒頭でもご紹介したモデルのKaoRiさんや水原さんの件などもあり、フォトグラファーの中には、「個人的に作品やライフワークとして女性モデルのヌードを撮影しているが、後々のトラブルを防ぐため、合意書などを作っておいたほうがいいのかな」と迷われている方も多くいらっしゃるようです。

結論としては、つくっておいたほうがいいでしょう。
合意書をつくることで、フォトグラファーにとっては、後々、モデルから「嫌だったのに応じた」などと訴えられるリスクは少なくなりますし、モデルにとっても、文面にすることで、冷静に考えられるきかっけになるからです。
なお、ここでは詳しく触れませんが、フォトグラファーが、撮影した写真を後に作品集として発売したり、エキシビションで展示したりする場合、モデルの肖像権が問題となります。
作品の利用に対するモデルの合意についても合意書に入れておくとよいでしょう。

具体的には、次のような内容を盛り込むといいと思います。

・モデルは、フォトグラファーから、この撮影及び作品のコンセプトや着用する衣装、撮影場所、撮影時のポージング等について説明を受け、これを理解し、この撮影を行うこと及び作品に登場することに合意する。

・モデルは、フォトグラファーがこの作品をホームページ上で使用することに同意する(ここでは、モデルがこの作品の利用を同意する範囲を明確にします)。

・この作品が、フォトグラファー個人の作品展や公のエキシビション、雑誌、書籍、広告等に使用される場合、フォトグラファーは、その都度、事前にモデルにその旨を連絡し、確認する。

・撮影料について。

モデルが作品を自由に利用することに同意している場合には、「モデルは、フォトグラファーがこの作品を今後自由に利用することに同意する」などとしてもよいとは思います。
ただし、この場合でも、モデルのイメージや社会的な地位を害するような形で利用することはできません。
なお、モデルは原則として成年であることが前提です。
モデルが未成年の場合には、保護者の同意が必要になることがありますので、ご注意ください。

 

エディター、スタイリスト、ヘアメイクの方へ

撮影をオーガナイズするエディターや、モデルのプライバシーに非常に近い場所にいるスタイリストやヘアメイクも、フォトグラファー同様、モデルに対するセクハラ被害を防止する責任を負っています。
エディター、スタイリスト、ヘアメイクの方々は、次のようなことに注意してみてください。

・エディターは、事前に、モデル事務所または本人に、撮影のコンセプトや着用予定の衣装、撮影場所や状況などを説明し、同意をとっておきましょう。ヌード撮影やランジェリーのような場合には、そもそも対応できるモデルが限られるため、モデル側からOKが出た時点でモデル自身が撮影内容に同意していると考えられるケースが多いとは思いますが、露出が多い衣装の場合にはモデルがそのことを認識していないことも多いので、きちんと説明しておくことが必要です。

・エディターは、撮影時にもモデル本人に撮影内容を説明し、合意をとっておきましょう。

・タイアップや広告等でスタッフ以外の第三者が撮影の立ち会いを希望している場合には、モデルにそのことを説明した上で、ヌードや露出が多い衣装のシーンではモデルの意思を確認し、モデルが不快に感じているときには一時的に立ち会いをやめてもらうなど(画面モニター上だけで写真を確認してもらうなど)、モデルの気持ちに配慮した対応をしましょう。

・スタイリストは、必要な下着や小物、バスローブなどを用意しておいてあげましょう。また、露出が多い服の場合にモデルが下着をつけることを希望しているような場合には、フォトグラファーにも確認し(レタッチで対応可能かなど)、必要な対応をしましょう。

・スタイリストやヘアメイクはモデルの体や肌に触れたり一緒にいる時間が長いせいか、モデルが彼らに心を開くことは少なくありません。スタイリストやヘアメイクは、着替え中やヘアメイク中にモデルの様子を観察し、モデルが不安に思っていることなどがあれば、他のスタッフにも共有し、適切に対応しましょう。

・エディター、スタイリスト、ヘアメイクは、フォトグラファーが撮影中にモデルに無理な指示をしないよう、また無理な指示をしたような場合には、すぐに対応できるよう気を配っておいてください。その場の空気に流されて見て見ぬフリをすることは同罪です。

 

モデルの方へ

セクハラは、加害者が一方的に悪いものであり、被害者にはなんの落ち度もありません。
ただ、悲しいことですが、ファッション業界にセクハラが存在することは確かです。
そのことを認識し、自分自身で身を守ることは必要だと思います。

年上で経験も豊富なフォトグラファーやスタイリストなどの創り手の前に立ったとき、思わず萎縮してしまい、嫌なことを嫌といえないのは当然だと思います。
仮にそのとき「このフォトグラファーに気に入られたら、モデルとして売れるかも…」という気持ちがよぎったとしても、誰がそれを責められるでしょう。

でも、どうかこれだけは覚えておいてください。
あなたがモデルとしてカメラの前に立ったとき、あなたは創り手と対等な存在です。撮影現場では、年齢や経験の長さは全く意味がありません。
素敵な作品は、その作品に関わったすべての人がアイデアを出しあい、プラスの力を結集させてはじめて生まれるものです。
誰かが嫌だと感じている状況で、いい作品ができるはずがありません。
嫌なときは嫌だという勇気を持ちましょう。
その“NO”は、素晴らしいものを生み出すための“NO”です。

その上で。
KaoRiさんも書かれていますが、合意書を作っておくと安心です。
内容としては、上の「フォトグラファーの方へ」に書いたことを参考にしてみてください。
合意書は、当事者が自由に作成できるものです。
たとえば、その作品をフォトグラファーのホームページ以外で使ってほしくないなら、そのように書くこともできますし、自由に使ってOKと思うなら、そのように書くこともできます。

私自身は、フォトグラファーに無制限な利用を認めるべきではないと思っています。
今は自由に使っていいと思っていても、5年後、10年後に、やっぱり使ってほしくないと思うかもしれません。また、数年後にフォトグラファーがすごく有名になったときに、それでも無償でその作品を使われ続けるのはどうなんだろうと思うかもしれません。
だから、合意書は、ある程度制限的にしておくべきだと思います。

 

おわりに

まだKaoRiさんのブログをご覧になっていない方は、ぜひ一度読まれることを強くおすすめします。
芸術という仮面の影で悲しい思いをするモデルがこれ以上出てほしくないという思いから、自らの辛い体験を公表されたKaoRiさんの行動力に、心底感嘆しました。

今回は、モデルに対するセクハラ問題を取り上げましたが、残念ながら、ファッション業界のセクハラ問題はこれだけにとどまりません。
ファッション業界からセクハラを撲滅するためには、ファッション業界に関わるすべての人がこの問題を認識し、真正面から取り組む姿勢を持つことがとても重要です。
このブログが、セクハラ問題撲滅の一助になればうれしい限りです。

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